今回のパワハラ騒動の概要
2025年3月19日、テレビ朝日は公式リリースで「当社社員が会社経費を不適切に使用し、スタッフに対してパワーハラスメントをしていたことが判明し、懲戒処分とした」と発表しました。

メディア報道によれば、この社員こそナスDこと友寄氏であり、2019年~2025年1月に計約517万円の私的飲食代を会社経費として請求したことが明らかになっています。
同時に「複数のスタッフに対し、人格を否定するような発言を繰り返す」などパワハラ行為も確認されていました。
テレビ朝日の発表では、これらの行為は外部の編集室などで行われていたとされています。
社内資料や関係者の話では、友寄氏は番組統括者でありながら自らも出演する異例の立場だったため、周囲が注意しにくい状況になっていた可能性が指摘されています。
騒動発覚後、ナスD氏の冠番組は打ち切りが決定。
番組公式SNS(Instagram/X)や公式サイトはすでに削除されました。
テレビ朝日は懲戒処分として友寄氏を一段降格(管理職資格の剥奪)とした上で、不正受領した517万円をすでに全額返還したと発表。
また、関係部署の管理職も処分対象となり、役員から自主返納の報告も上がったという。
関係者によれば、当該社員が手掛けていたのはまさしく『ナスD大冒険TV』でした。
ナスD(友寄隆英氏)とは?

テレビ朝日で“破天荒ディレクター”として名を馳せた友寄隆英氏(愛称ナスD、50)は、かつてお笑いコンビ「よゐこ」の濱口優の無人島サバイバル企画などを手掛けた優秀なテレビマンでした。
特に2017年~2019年放送の旅バラエティー番組『陸海空 こんな時間に地球征服するなんて』内の「部族アース」企画で、取材中に現地の果実染料を全身に塗りつけたところ、肌が茄子(ナス)のように真っ黒に変色。
これ以降「ナスD」と呼ばれるようになりました。
その後、彼の名を冠した冒険紀行番組『ナスD大冒険TV』(2020年4月~2025年2月)がスタート。
自らロケに飛び込み、過酷な現地生活に挑む演出兼出演スタイルで人気を博しました。
ハラスメント背景:テレビ業界の体質

今回の問題を考える際、テレビ制作現場の職場文化にも注目が必要です。
テレビ業界は伝統的に上下関係が厳しく、プロデューサーやディレクターなど上位職が制作の権限を握るヒエラルキー型の構造が根強く残っています。
たとえば関西テレビのハラスメント問題を分析した報告書では、「プロデューサーは番組制作の権限を持ち、大きな影響力を持つ。こうした非対称的な力関係が『言い返せない環境』を生み出し、ハラスメントの土壌となっている」と指摘されています。
つまり部下や若手は逆らいにくい空気の中で厳しい指導を受けることが多く、場合によっては暴言や人格否定まがいの言動も「業界のやり方」として容認されがちでした。
また、日本企業に共通する「空気を読む」文化も、被害者が声を上げにくい背景要因です。
関テレマンの分析でも「上下関係や同調圧力が強い環境では、ハラスメントが発生しても声を上げにくく、問題が潜在化しやすい」と指摘されています。
実際、今回の報道でも「ナスD氏は若手時代の感覚でやったのかもしれない」という関係者談が伝えられており、以前は少々の叱責も“指導”とされることが多かった業界の体質が透けて見えます。
長時間労働やタフなロケ現場で鍛えられたベテランには、「普通のことだった」と思える言動も、新時代の価値観では許容されなくなっているのです。
なぜ今、ハラスメントが大問題に?時代背景の分析

近年の社会変化も、今回のような騒動を大きく取り上げる要因となっています。
以前は職場の厳しさは当たり前とされていましたが、現在では多様な価値観が尊重され、「かつては許容されていた言動が不適切とされる範囲」が広がっています。
たとえば労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行により企業にはハラスメント対策義務が課され、セクハラ・パワハラに対する社会的監視が強まりました。
こうした法整備の下で、会社は些細な行為でもコンプライアンス違反と見なされるリスクを意識しています。
加えて、情報環境の変化も大きな要因です。SNSやインターネットでの情報拡散力は極めて高く、一度「◯◯がハラスメントした」という噂が立つと瞬く間に広がり、大きな騒動になります。
たとえ事実関係がはっきりしなくても、世間の注目を浴びることで企業は迅速な対応を迫られ、炎上が起きやすい土壌ができています。
実際、田中稔氏らも「パワハラが明るみに出れば企業イメージは著しく低下し、情報はSNSで非常に速く拡散する」と指摘しています。
世代間の価値観の違いも影響しています。
現在の若手(Z世代)はワークライフバランスや職場環境の柔軟性を重視する傾向が強く、上司からの叱責に対して「パワハラだ」と感じやすい面があります。
実際、企業調査では多くの管理職が「注意や指導をしただけで『パワハラだ』と言われる」と嘆いており、一方で若手側は自分たちが『やらなくていい』仕事に理不尽さを感じやすいと報告されています。
こうした意識変化も相まって、以前なら済まされた指導も「問題発言」と受け止められ、たちまち問題化しやすくなっています。
一般人・管理職への示唆

今回の件を受け、私たちが職場で取るべき姿勢も改めて問われます。
まず一般社員としては、ハラスメントの基準が厳しくなった現実を理解することが重要です。
もし同僚や部下の扱われ方に疑問を感じたら、上司や人事・総務の相談窓口に速やかに報告・相談することが推奨されます。
また、SNSでの発信は拡散力が高いため、軽率な書き込みは自社の信用に関わることを念頭に置きましょう。
被害を受けた場合には、ためらわず専門家や外部窓口に助けを求め、「沈黙しない勇気」を持つことが大切です。
管理職・上司に対しては、指導とハラスメントの線引きを明確にする責任があります。
権威をふりかざすのではなく、部下の尊厳を傷つけないコミュニケーションを心がけましょう。
具体的には、業務に関係のある指摘・叱責に留め、人格否定や過度な罵声は決して使わないことが鉄則です。
また、労働法や社内規定でパワハラ定義が明文化されている企業も多いので、研修受講などで社内ルールを再確認し、過剰指導とハラスメントの違いを正しく理解しましょう。
早期にフィードバックの機会を設ける「1on1面談」や、心のケアの窓口設置など、コンプライアンスを徹底して信頼関係を築く工夫も求められます。
- ポイント例(対策案)
- コンプライアンス研修やハラスメント防止研修を定期的に実施し、社員全員の意識を高める。
- 社内外の相談窓口を明示し、被害の早期申告ができる環境整備を行う。
- 管理職は叱責・助言の場面で「相手の人格を尊重する」視点を忘れず、必要なら具体的な改善策を示し共に考える。
- 一般社員は、自分自身の発言が周囲にどう受け取られるかを常に意識し、疑問を感じたら声を上げる。
まとめ
テレビ朝日の「ナスD」パワハラ騒動は、個別の問題と見えつつも、 テレビ業界の旧来の現場文化と現代の厳しいコンプライアンス潮流がぶつかった一例と言えます。
視聴者や一般社員としては、ハラスメントの加害も被害も決して個人の「若い頃のノリ」で片付けられるものではないという認識が求められます。
時代に即したコミュニケーションと法令順守を重視し、組織全体で互いの立場を尊重する風土づくりが不可欠です。
今回の事件はテレビ局の不祥事という側面もありますが、私たちの日常の職場にも共通する教訓を多く含んでいます。
沈黙せず正面から向き合う勇気が、より良い職場環境をつくる第一歩と言えるでしょう。
参考情報
友寄隆英氏の報道記事





参考情報:時代背景解説










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