退職代行サービスとは、従業員本人に代わって退職の意思を会社に伝えるサービスです。
最近では、退職の連絡だけでなく、未払い残業代などの請求まで代行する業者も登場しています。
提供形態としては大きく3種類あり、弁護士が提供するもの、労働組合(退職代行ユニオン)に所属するもの、そして民間事業会社が運営するものがあります。
弁護士が提供する退職代行では、弁護士資格をもつ者が退職日や引継ぎの交渉・調整まで正式な代理人として行うことができます。
退職代行ユニオン(労働組合)では、団体交渉権を活用し、退職日の調整や未払い賃金の請求などの交渉が可能です。
一方、民間企業が運営する退職代行サービスは、依頼者に代わって退職届を会社に提出することに限定され、未払賃金の交渉などは法律上許されていません。
例えば、民間型サービスの代表例として「EXIT」(20,000円)や「退職代行ニコイチ」(27,000円)などがあり、いずれも顧客は比較的短時間で退職手続きを完了できます。
近年は、新卒・若手社員の間で利用が急増しており(2024年上半期の企業調査で退職代行利用ありは23.2%)、人手不足や若者の転職志向の高まりを背景に“簡易な退職手段”として認知されています。
退職代行は本当に「悪」なのか?

退職代行サービスに対しては賛否両論があります。
批判的な見方では、「退職代行を使うと逃げ癖がつく」「若者を甘やかしている」「情報弱者から金を取るビジネスだ」という声も少なくありません。
一方で、「ブラック企業から逃げるための手段」「バックレよりマシ」「家事代行に例えられる効果的なサービス」など、肯定的な意見も多く聞かれます。
東洋経済の取材によれば、あるライターは「ブラック企業に就職した場合、退職代行を使うのはむしろアリだ」と指摘しています。
要するに、退職代行自体は法的に違法ではなく、問題は利用者と企業の関係性です。
退職を申し出にくい職場環境や、上司から強硬な引き留めを受けるような状況が背景にあれば、退職代行が社会のセーフティネットとして機能する面もあると言えます。
したがって、単純に「悪いこと」と決めつけるのは早計であり、利用者の心理や職場の実態と合わせて議論されるべきでしょう。
退職代行の料金相場とサービス内容の違い
退職代行の料金相場は提供形態ごとに異なります。
一般的な目安として、民間企業運営の退職代行は約2~3万円(税込)が相場です。
例えば、「EXIT」は20,000円、「退職代行ニコイチ」は27,000円といった料金設定です。
これら民間企業型サービスでは、あくまで「退職の意思を会社に伝えるだけ」に留まり、給与交渉や未払い賃金の請求といった法的な交渉は行いません。
労働組合(ユニオン)

公式サイト:https://www.union-law.jp/
運営の退職代行は、2.5~3万円程度が相場です。
労働組合には団体交渉権があるため、民間企業型よりも交渉や請求に対応可能な点が特徴です。
たとえば有給取得や退職金、未払い残業代の請求なども相談できます。
ただし、訴訟となると代行業者では手続きできないため、その場合は弁護士など専門家を別途立てる必要があります。
弁護士運営

検索サイト元:https://enman-taishokudaikou.com/
退職代行では着手金などを含めて約2.8~5万円以上が相場です。
弁護士は法的代理人ですので、労働審判や裁判まで含めた本格的な対応が可能です。
弁護士退職代行では「5万円程度の着手金+未払賃金回収の成功報酬」といった料金体系が一般的で、交渉力・法的対応力がメリットですが、料金は高くなりがちです。
なお、弁護士業務でも「交渉不要」であれば民間型と同じく退職意思の伝達のみで安価なプランもありますが、交渉権や法的手続きが必要な場合は追加料金が発生する点に注意が必要です。
非弁行為の解説:どこから違法になるか

民間企業が提供する退職代行では、法律上「非弁行為」に注意が必要です。
東京弁護士会・非弁取締委員会は、法律の専門家でない者が報酬を受けて法律問題を代理交渉する行為は弁護士法違反(非弁行為)になると明示しています。
具体的には、未払い残業代の請求やパワハラによる慰謝料請求など、労働者の権利に関わる計算や主張は「法律的な問題」に当たります。
弁護士資格のない退職代行業者がこれらを本人の代理で交渉・計算した場合、違法行為に該当します。
一方、単に退職届を提出して業務から離れるだけであれば、非弁行為にはあたりません。
法律上の問題が絡む交渉を行うかどうかが境界線であり、提供サービスの内容を明確に把握することが重要です。
万が一、業者が非弁行為に該当する行動をしている場合、会社はその部分の交渉に応じる必要はありません。
ただし、その場合も業者名を非難するのではなく、正式に本人からの依頼であることを示す書類(委任状など)の提出を求めるなど慎重に対応するよう促されています。
若手社員が退職代行を選ぶ理由

調査によれば、退職代行利用者の多くは「退職の意思を言い出しにくいから」(約50%)や「すぐに退職したいから」(約44%)と回答しています。
また「上司や同僚との人間関係が悪い」(32%)、「パワハラ・セクハラ被害に遭っていた」(31%)、「退職を認めてもらえなかった」(27%)といった回答も上位に挙がっており、若手を中心に退職意思表明への心理的障壁が高いことがうかがえます。
実際、多くの若手社員は会社に対して「給与が低い」「将来性が不安」など本音を伝えにくい状況にあり、そのギャップが退職代行増加の背景にあります。
立教大学の首藤教授も「職場に納得できない点がある中で、『逃げたい』ほど追い詰められる若者が、退職代行サービスを選択している」と分析しています。
これらの傾向は、職場文化や世代間ギャップとも関連しています。
近年の若い世代(Z世代)は、精神的安全性や働きやすさを重視し、納得できない環境に留まらない価値観が強いと言われます。
かつ「上司に意見することへの心理的負担が大きい」「成果型の業務に転職市場が寛容」という状況もあり、一つの会社に固執しない風潮があります。
そのため、直接面談を避け、プロに退職意思を伝えてもらう退職代行が「賢い選択肢」と捉えられるケースが増えているのです。
管理職が取るべき対応策

退職代行の利用が増える背景には、職場環境やコミュニケーション不足といった組織側の課題もあります。管理職層は、以下のような対応策を講じることが重要です。
従業員との日常的な対話の充実

部下との良好な関係づくりは、退職代行を使わせないための基本です。
日頃から意見を聞く機会(面談や1on1)を設け、業務の悩みや職場への不満を早期に把握しましょう。
定期的なカウンセリングや自己申告制度を活用し、配置転換など柔軟な対応を検討することも有効です。
こうした心理的安全性の確保により、部下が声を上げやすい環境を作ることができます。
職場環境の改善と原因究明

退職代行が使われる職場には、何らかの原因が潜んでいます。
人手不足による過重労働や労働時間管理の不備、ハラスメント行為、上司の過度な引き留め行為などがないか点検しましょう。
特に若手は上司に意見を言いづらいため、「仕事量が過剰」「有給が消化できない」「評価が不透明」といった問題は対話で解決しにくくなります。
管理職自らが職場の雰囲気や人間関係を定期的に見直し、不満の芽を摘む取り組みが欠かせません。
事態発生時の冷静な対応と振り返り

実際に退職代行の連絡を受けた場合、まずは業者の身元と依頼者が本当に本人であるかを確認します(委任状や契約書の提出を求める)。
その上で、拒否ではなく正式な退職手続きとして受理します。
感情的になりがちですが、会社側は「なぜ本人が自力で申し出られなかったのか」を客観的に考え、組織の改善点として検証することが大切です。
管理職は「裏切られた」という怒りではなく、依頼者の立場に立って考え、二度と同様の事態を招かないよう職場づくりに努めるべきです。
以上のように、管理職は日頃から部下との信頼関係を築き、心理的安全性に配慮することが求められます。
退職代行は今後も一定の需要が見込まれるため、発生を防ぐために職場環境を改善し、問題があれば早期に解決する姿勢が重要です。
参考資料: 本稿執筆にあたり、厚生労働省や労働団体、調査機関が公開するデータ、弁護士会の解説など公的・専門的な情報を参照しました。







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